ベビーカーを押す狂人
愛車のジムニーが故障した。
悪くなったのは去年の夏ぐらいからで、エンジンの調子が宜しくない。
エンジンがかからない時もあり、かかったと思えばさらに坂道でパワーが出なくなるわで明らかにどこかが故障していた。
夏以来、マイカーには全く乗っておらず、年が明けるまでほっといたのは持ち前の面倒くさがりの性格のせいであるが、冬場は灯油を買いに行く必要があるためしぶしぶSUZUKIへと整備の依頼をした。
3連休の最後の月曜日ならとりあえず預かりますよ、とのことであったので、試運転も兼ねて土曜日に久しぶりにエンジンをかけてみることにした。
イグニッションキーを回すと、アラ意外!にもすんなりエンジン始動。
アイドリングも安定しているので問題ないと判断し、近場のコンビニまでチョイと出かけたところ、コンビニの駐車場でエンスト。
エンジンをかけるもすぐエンストするので諦めてレッカー会社に連絡して、日にち的には早いがSUZUKIへ入院することとなった。
小雨の中、レッキング作業を終えてSUZUKIへ到着し、
ディーラーで諸手続を済ませて、帰路つく前に妻へ事情を説明すると、
『車に積んでいたベビーカーを持って帰るように』
との指示が。
命令は絶対なので反射的にハイッ!と返事をしたのは良いが、改めて考えるとこのクエストのレベルが高いことに気がついた。
SUZUKIの整備工事から家まではさほど距離はないが、渋谷を経由しなければ帰れず、時間も土曜日の夜ということでそれなりに人通りが多い時間帯である。
しかも雨がふっており、なかなかの悪条件のなか誰も乗っていないベビーカーを押して帰らなければならないのだ。
俺は生粋のシャイ・ボーイであり、一人で電車に乗るのも寿命を縮める行為なのに、雨の中人混みを掻き分けて誰も乗っていないベビーカーを押しながら帰宅するのは明らかにオーバーキル。
帰り際に借りたSUZUKIのトイレの中で考えついた策は、毛布を2枚使って、寝てる赤ちゃんに毛布を掛けてる状態をクリエイトするアイデアであった。
車内にあった毛布をつかってみたところ、
意外に悪くない。
すげくね?と自画自賛しながら電車に乗ったのであるが、やはり問題が起きた。
ホームの段差でつんのめった時に赤ちゃんを模擬した毛布が地面に落ちたのである。
焦る俺、痛い周りの視線。
そこにはただ、狂ったオッサンが空のベビーカーを押しながら電車に載っていた事実だけが存在していた。
その後、ハリケーンが起こるほど荒れ狂って、内なる力を解放した私が周囲の乗客をバッサバッサとなぎ倒し、ローマ法王から感謝状を貰いに行く飛行機のトイレでアイコスを吸ったのがばれて罰金をくらったのはまた別の話。